話し言葉が少なくても身ぶりや視線などを通じて本人の表現を研究に取り入れた例があります。2026年10月30日公開の論文は自閉スペクトラムの子どもが参加した11研究を整理しました。ただし動作から気持ちを正確に読み取る方法が確立したという結果ではありません。
『ひとやすみっけ』のかおかーさんです。本人の気持ちを聞きたいときに大人の質問の仕方だけで答えを求めていないか。そんな視点で読んでおきたい研究です。研究で分かったことと家庭や面談で考えられる工夫を分けて紹介します。
本人が研究に参加する方法を調べた論文
今回の論文は関連する研究の広がりや不足を整理するスコーピングレビューです。新しく子どもを集めて訓練の効果を試したものではありません。保護者や先生の説明だけでなく子ども自身が情報を提供した研究に注目しています。
| 公開日 | 2026年10月30日 |
|---|---|
| 著者 | Sebastian Trew/Douglas H. Russell/Wenn B. Lawson |
| 掲載誌 | Child Psychiatry & Human Development |
| 対象 | 話し言葉を使わないか使用がごく少ない5〜18歳の自閉スペクトラムの子ども |
| 調査方法 | 8つのデータベースなどで文献を探し2,092件を選別 |
| 採用した研究 | 2012〜2025年に公表された11研究 |
| 研究が行われた国 | 英国のイングランド・米国・カナダ・コロンビア・クロアチア |
| 重複を除いた人数 | 13人 分析対象となった回想録の著者3人を含めると16人 |
2,092件は調べた文献の数で子どもの人数ではありません。同じ参加者を扱った論文が複数あるため、11研究をそれぞれ別の集団と考えることもできません。人数と対象の重なりは結果を読むときの大切な条件です。
身ぶりや視線も本人の表現として扱う
11研究のうち9研究は映像による観察を使っていました。日常場面での身ぶりや視線、声、体の動き、機器の操作などを記録して分析しています。質問に口頭で答える形だけに参加の方法を限っていなかったことが特徴です。
ただし映像に残るのはその場での行動ややり取りです。本人が内心で何を考えたかをそのまま読めるわけではありません。論文でも行動としてのコミュニケーションと本人の主観的な経験を区別する必要が示されています。
ここでいう「話し言葉が少ない」は研究対象の発話の特徴を指します。緊張する場面で話せない子や話したくないと感じている子すべてを調べた研究ではありません。発話の量だけから理解力や診断を判断する材料にもできません。
拒否や中断の意思も参加の一部
5研究は拒否や抵抗をコミュニケーションとして扱っていました。機器から顔をそむけることや活動への抵抗などを単なる不参加として片づけず、その場のやり取りの中で意味を検討しています。
保護者が参加に同意したことと本人がその場で続けたいことは同じではありません。論文では子ども自身の参加への賛意をどう確かめたかについて研究ごとに報告の差があり、途中で休む・やめる方法も課題になっています。
重度の障害がある人の意思伝達を扱う米国の合同委員会NJCはコミュニケーションの権利宣言で拒否や選択の権利を掲げています。これは今回の研究結果とは別の考え方の指針です。本人が断る余地を残すことも重視しています。
見えた行動と大人の解釈を分ける
顔をそむけた理由を大人が一つに決めてしまうと本人の意思から離れるおそれがあります。本人をよく知る人の情報は参考になりますが、それだけで解釈が確定するわけでもありません。分からない部分を残して考えることも必要です。
下の図は観察したことと推測を分けるための整理例です。この研究で効果が検証された手順ではありません。メモを共有するときも大人の予想を本人の発言として書かず、何を見てどう考えたかを区別します。
- ① 実際に見えたこと
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例:提示したカードから顔をそむけた
- ② 大人が考えたこと
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例:休みたいのかもしれない。ただし理由はまだ分からない
- ③ 本人に確かめる方法
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本人が使える伝え方で休む選択肢を示す。返答がなければ意味を決めつけない
伝える道具と介助者による入力は別
話すことを補ったり別の方法に置き換えたりする支援はAAC(拡大・代替コミュニケーション)と呼ばれます。身ぶりや絵・文字のカード、音声を出す機器などが含まれます。本人に合う方法は一つとは限りません。
写真:UK Human Development Institute
今回のレビューには介助者が手や腕などを支えながら文字を選ぶFC(ファシリテーテッド・コミュニケーション)を使った研究も含まれています。米国言語聴覚協会(ASHA)は科学的に妥当性が否定されている方法として使用すべきでないとしています。
介助者が文章を作っているという証拠があり、FCの入力を本人の言葉とみなせないためです。この問題を本人が自ら選んで使うAAC全体に広げるのも適切ではありません。レビューへの収録は方法の有効性を保証するものではありません。
面談では答え方と休み方を相談する
ここからは研究を踏まえた日常への応用案です。家庭や学校の面談で同じ効果が出ると確認されたものではありません。本人が普段使う伝え方を中心に、家族や先生、言語聴覚士などと相談する項目として考えてみてください。
| 相談すること | 具体例 |
|---|---|
| 答える方法 | 本人が使い慣れた身ぶりやカード、機器を持ち込めるようにする |
| 答える時間 | 質問を重ねる前に待つ時間を設ける。待つ長さは本人に合わせる |
| 選べる内容 | 大人が望む二択だけでなく「どちらでもない」「今は答えない」も伝えられるようにする |
| 休む合図 | 途中で休みたいときの伝え方と合図を受けた大人の対応を共有する |
カードがあるだけで選べるとは限りません。絵や文字の意味が分かるか、見えるか、指さすなどの操作がしやすいかも関わります。道具を一式そろえることを先にせず、すでに本人が使っている方法から相談を始められます。
この研究だけでは分からないこと
対象人数は少なく研究ごとの方法も異なります。論文は研究の質を正式に評価していないため、どの方法が最も有効かは判断できません。また英語で公表された資料に限った調査で世界中の実践をすべて集めたものでもありません。日本語で書かれた研究は対象外です。
日本の特別支援教育や不登校支援の制度を評価した研究ではなく、就学先や支援内容を一律に決める根拠にはできません。学校に行けない理由や面談で答えない理由をこの論文で説明しようとせず、一人ずつの状況を見る必要があります。
本人が伝えられる余地を残したい
わたしは子どもの気持ちを尊重したいと思っていますが、早く答えを知りたいという大人の都合で急がせないようにしたいです。うまく聞き出すことより本人が伝えたいときに使える方法を一緒に考えたいと思いました。
かおかーさん答えを保留したまま相談を終える余地も残しておきたい
次の面談に向けて普段の伝え方や中断の合図を一つ共有する。そんな小さな準備も応用案の一つです。本人の代わりに大人が答えを完成させず、伝えられたこととまだ分からないことを分けて話し合うための準備になります。
資料は2026年11月2日に確認しました。研究の詳細はTrew・Russell・Lawsonによる原論文へ。CC BY 4.0で公開された論文を日本語で要約し解説を加えています。





